精神病理・精神療法・児童精神医学研究会

About Us

精神病理・精神療法研究会 児童精神医学研究会へようこそ。
人間が人間を診ることの難しさは言うまでもありません。精神科医を志した誰もが患者さんの心を精緻に把握し、心と心を通わせ、治癒へと導くことを夢みたのではないでしょうか。その方法論として、カール・ヤスパースの現象学的記述、クルト・シュナイダーの臨床精神病理学が、治療論として森田療法、精神分析、最近では認知行動療法があります。これらを自家薬籠中の物にするには、地道な勉強、長年にわたる修業が必要となります。しかし、夢半ばで断念していることが多いのではないでしょうか。私どもは一生をかけると決断した精神科医の基本的素養としての精神病理学、精神療法を地道に勉強していく所存です。そして、一例一例を丁寧に検討し、心を精緻に把握し、心と心を通わせる方法論を検討して参りたいと思っております。こうした一例一例を丁寧に精緻に、そして誠実に検討していく姿勢が私ども精神科医の原点と位置付けております。こうした姿勢が、患者さん一人一人の発展につながることを確信する次第です。私どもと一緒に精神医学の基礎を固め、そして深奥の道を歩んでいきませんか?

研究テーマ

  1. 現代における森田療法の鍵概念である「生の欲望」に関する研究
  2. 現代における森田神経質の亜型分類に関する研究
  3. 森田療法と健康生成論に関する研究
  4. 思春期以降の発達障害について

メンバー

川上正憲(附属柏病院)
丸山晋(総武病院顧問)
増茂尚志  (栃木県精神保健福祉センター所長)
樋口英二郎(慈恵医大客員教授 総武病院院長)
小野和哉(慈恵医大客員教授 聖マリアンナ医科大学神経精神科特任教授)
沖野慎治(総武病院副院長)
瀬戸光(総武病院)
杉原亮太(総武病院)

主要な研究論文

1. 小野和哉.【こころの発達の問題に関する”古典”をふりかえる】 ADHDの古典 存在していながら認識されないもの.精神医学2018;60(10):1085-1092

解説:ADHDに関する歴史的展望を古典から概説しました。ADHDが臨床症例として概念化される以前にも存在していたことは古典の鮮やかな描写により明らかです。
しかしながら、それに対して治療的な接近の必要が生じたのは現代になってのことである。この事実は、その基盤に子どもへの認識、教育のシステム、社会的ニーズの変化が生じてきたからであると考えられます。これは現代という時代の特性を象徴していると考えられまる。
 
 2. 小野和哉.【カタトニア(緊張病)の診断・治療を問う】 発達障害とカタトニア 自閉スペクトラム症を中心として.精神科治療学2018;33(6):741-746

解説:発達障害におけるカタトニアは比較的ありふれた病態です。しかし、統合失調症や気分障害といったいわゆる内因性精神病群のそれと同じ病態であるのかは明らかになっていません。近年の緊張病症候群としての理解は、表層の症状の類似性や治療反応からの議論で、基底となる障害による相違に対してはまだ研究が不足しています。今回は限られた研究や症例からこの点について検討しました。本稿では発達障害の中で特にカタトニアに関して研究が多い、自閉スペクトラム症(ASD)のカタトニア病態を発症契機、症状、経過から、内因性精神病群のそれと比較してその相違点について明らかにしました。また、ASDでは主観的体験が言語化されないために、症候の意味が不明確である病態を、発達精神病理学的見地から解析し、仮説を試みました。カタトニアにおいては、発達障害への留意と、病態の発達精神病理学的見地からの解析が、治療の一助となると考えられました。
 
3.  川上正憲.社交不安障害(対人恐怖)をめぐる一考察―生活史に心的外傷性エピソードを認める2症例について―.精神経誌2018;120(11):997-1004.

森田正馬が森田神経質を発見し、その治療方法として森田療法を創始して100年を迎えます。定型的森田神経質は理想と現実の矛盾に葛藤する病態でした。
こうした定型的森田神経質は減少の一途を辿っています。今回は、神経質基盤を基盤に心的外傷性エピソードを認め、視線恐怖、対人緊張を呈している2症例を提示し、現代における森田神経質の一亜型について論じました。

4. 瀬戸 光.多職種連携による慢性期統合失調症への治療的な介入の一例 ―精神病理学・力動精神医学的検討―. 社会精神医学研究所紀要2018;46(1):45 -56.

精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの実践は、社会精神医学研究所として重要なテーマです。今回、症例を提示し病像の精神病理学的検討を行うとともに、他職種の意見を提示することで、精神科医療における多職種連携について、力動精神医学の視点で考察しました。

5. 沖野慎治,小野和哉,中村晃士,神田真里,小高文聰,中山和彦.自閉スペクトラム症の注意機能と精神症状との関連.慈恵医大誌2016;131:121-130.

ASD(自閉スペクトラム症)患者, 統合失調症患者および健常被験者に対して標準注意機能検査(CAT)を施行し、注意機能について3群比較し、注意機能障害と精神症状との相関についても検討しました。その結果、ASD群と統合失調症群は類似した注意機能プロフィールを示しましたが、ASD群にのみ注意機能障害と精神症状に有意な相関が認められました。ASD患者では、精神症状発現の精神病理の一部は、特異的な注意機能障害と関連すると考えられました。