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JIKEI最前線

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2018年10月30日

「患者さんの人生に寄り添ったケア」を主導する認知症ケアチーム #001

チームは医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーの多職種編成

慈恵大学病院の「今」を伝えるコーナー「JIKEI最前線」。今回登場するのは、2016年に結成された認知症ケアチームです。内科や外科で治療のために入院する患者さんを対象に、認知症を併発していたり認知症とよく似た症状が見られたりした場合、そうした症状の悪化を防ぎ、治療をスムーズに受けられるよう支援しています。医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーという多職種からなる認知症専門のチームが介在することで、現場はどのように変わったのでしょうか。

  • 精神神経科医師/認知症専門医

    品川 俊一郎

    1999年、東京慈恵会医科大学卒業。07年、同大学大学院卒業。12〜14年、カリフォルニア大学サンフランシスコ校 メモリー&エイジングセンターにて客員研究員。現在は東京慈恵会医科大学 精神医学講座講師、附属病院 診療医長。

  • 薬剤師 長郷 千香子(左)

    認知症看護認定看護師 看護師長
    朝倉 真奈美(右)

    <長郷>東北薬科大学薬学部卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院 薬剤部入局。
    <朝倉>東京慈恵会医科大学 医学部看護学科卒業後入職。同大学院修士課程修了。

  • 認知症看護認定看護師 主任
    赤間 美穂(左)

    メディカルソーシャルワーカー(MSW)丹羽 隆子(右)

    <赤間>慈恵柏看護専門学校卒業後入職。明治学院大学 社会学部社会福祉学科、JCHO本部研修センター 認知症看護学科修了。
    <丹羽>大学(福祉学部)卒業後、社会福祉士・精神保健福祉士資格取得。2013年4月より東京慈恵会医科大学附属病院入職。

専門チームの誕生により、早期の対応が可能になった

同じ症状でも、工夫次第で患者さんの不安を軽減できます(品川医師)

――活動開始から約2年が経ちました。結成時からのメンバーである皆さんは、この2年間でどんな変化を感じていますか?

赤間

チームができた当初は、現場で何か困ったことが起きてから相談されるケースが多かったのですが、最近は早い段階で連絡をもらえるようになりました。私たちはあくまでも担当の医師・看護師にアドバイスをする立場なので、現場のスタッフが気軽に声をかけてくれるようになったのはうれしい変化ですね。


朝倉

現場の知識や対応力も増していますよ。2年前から職員向けに認知症の研修会を開催しているので、その成果だと思います。一方で、研修会を通じて、認知症についてこれほど知られていないものなのか、とあらためて気づかされることがあります。例えば認知症の患者さんには、後ろから話しかけたり、座っている相手に立った状態で声をかけたりせず、正面から目線を合わせて会話するのが基本です。認知症になると注意力が低下するので、「今、あなたと話していますよ」と伝わりやすくするためですね。

患者さんにとって最善のケアとは? 各々の立場から意見を出し合います

赤間

もう一つ、よく誤解されてしまうのが、認知症という1つの疾患が存在すると思われていることです。認知症には複数の種類があり、適切な治療法がそれぞれ異なります。こうした認知症の細かな診断には、品川先生の存在が欠かせません。


品川

認知症のタイプ分けに加えて、担当医師が「これは認知症ではないか」と推測した症状が、実は認知症ではなく、よく似た症状を起こす「せん妄」によるものだった、というケースもあります。せん妄は、入院などの急激な環境の変化によって発症しやすいのですが、一時的なものなのできちんと環境を整えれば回復します。ただ、両者を区別するのは専門医でないと難しい。こうした鑑別診断も含めて、チームが介入することで、早めに適切な対応ができるようになってきました。

ケアに必要なのは、患者さんの「物語」に耳を澄ますこと

体の症状だけでなく、これまでの生活習慣も考慮したケアを考えます

――患者さんがスムーズに治療を受けられるよう、認知症ケアチームの皆さんが特に意識していることは何ですか?

朝倉

患者さんが何かを嫌がる時は、必ず理由があるんです。その理由を、会話や振舞いの中から探すことですね。中でも体の痛みは患者さんの不安を増幅させてしまうので、率先して取り除きたいと思っています。認知症の患者さんは、失語や記憶障害によって苦痛をうまく意思表示できないことがありますから、顔をゆがめたり、どこかをかばうような動きをしていたりという「非言語的なサイン」を読み取るよう心がけています。


赤間

五感を使って患者さんの思いをくみとるのは、認知症ケアの現場では特に重要なんです。例えば、日常のあらゆるケアを断固拒否されていた患者さんがいらっしゃったのですが、突破口となったのは過去のお仕事内容でした。その方は、ケアは拒否するものの、ご自分の仕事についてはいつも楽しそうにお話しされるんですよ。お話から会社を経営していた方だとわかったので、「お客さまがいらっしゃいますから、身だしなみを整えませんか」と言い方を変えたところ、それまで拒否していたのが嘘のようにケアを受け入れてくださったんです。

患者さんの背景を知るには、実際に会って会話することが欠かせません

品川

誇りを持って組織を引っ張ってきた方だから、他人からお世話を受けることに抵抗を感じたのかもしれませんね。誰にでも、その人固有の物語があります。そこに認知症が加わるので、同じケアを施すにしても人によってアプローチが変わるのは当然です。「入浴拒否」といった事実だけを見ずに、なぜ拒否されるのか、その背景にはどんな想いや経験があるのかをくみとること。個人の生活史や価値観を尊重することは、認知症ケアの原則であるとともに、慈恵大学病院の理念「病気を診ずして 病人を診よ」にもつながる精神ですね。

入院中から退院後まで、トータルで支援する

メンバー全員で電子カルテを共有し、カンファレンスで検討します

――認知症ケアチームは、メンバー全員が病棟を巡回する「ラウンド」を毎週行っていますね。個別の相談に応じるだけでなく、チーム自ら現場を見て回ることで、患者さんへのケアはどのように変わりますか?

品川

患者さんが不安を抱いたり混乱したりする前に、現場にいち早く適切なアドバイスをすることができます。例えば、昼夜リズムが崩れそうな方がいたら、「昼寝しないで済むように、日中はできるだけ声をかけてあげて」と近くの看護師に伝える。治療用の器具を外してしまう患者さんがいたら、「体のこの部分についている器具は、大切なものですよ」と絵を描いて説明することを勧める、といった具合です。ラウンドの前には、患者さん一人ひとりに合った治療やケアの方法を検討する「カンファレンス」を毎週行っています。それにあたって朝倉さんと赤間さんが患者さんの情報を収集してくれるので、個別の状況を把握した上で、具体的な助言ができるようになりました。


MSW

ソーシャルワーカーとしては、ラウンドがあることで、より患者さんの境遇に合った提案が可能になりました。ある患者さんは「自宅にいる妻が心配だから退院したい」と繰り返し訴えておられたのですが、お体の状況から自宅に戻ることが難しく、退院先の施設を探すことになりました。そこでご家族と相談し、奥さまと一緒にいられるよう、お2人で入居できる老人ホームをおすすめしたんです。日ごろからチームが現場を巡回し、体の症状だけでなく、患者さんの想いや背景まで把握していたからできた提案です。

5人一緒に巡回することで、ケアを総合的に判断できます

長郷

薬剤師である私は、今年の秋からチームに参加します。治療のために処方されたさまざまな薬を確認し、認知症の症状を起こしやすい薬が混ざっていないか、処方の量は適切かを検討するのが役割です。特に高齢の方は薬の種類が多くなりやすいので、できるだけ不要な薬をなくしていきたいと思っています。


品川

チームにソーシャルワーカーがいると、退院後のケアまでトータルで考えることができるので非常にありがたい存在です。医師ができることって、たくさんあるように見えて実は少ないんです。看護師や薬剤師、ソーシャルワーカーと連携することで、患者さんがこの先もその人らしく生きていくためのお手伝いをできるようになったのは、本当に喜ばしいことですね。


※2018年10月時点の情報です。

ひと言解説

患者さんの不安をしっかり受け止め、
ベストな治療を探ります(品川医師)

認知症を心配する人を支える「メモリークリニック」

認知症とひとくちに言っても、アルツハイマー病、レビー小体病、血管性認知症など、さまざまな種類があります。加えて、認知症以外の疾患でも、似たような症状が出ることも。症状の悪化を防ぎ、ご自身に合った治療を受けるには、早期に的確な診断を受け、適切な治療・リハビリの計画を立てることが大切です。慈恵大学病院のメモリークリニック(もの忘れ外来)では、精神神経科と神経内科の医師が診療を担当し、記憶や判断力のテスト、脳波・血液検査などを必要に応じて行います。「認知症ではないか」と心配になったら、お気軽にご相談ください。

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